どんなものがあるの?高齢者の食事の特徴と食事形態について
食事は人間が生きていくうえで非常に大切なものです。しかし、高齢者の場合には身体に起こる変化によって、うまく食事ができないということも珍しくありません。では高齢者の食事にはどのような特徴があるのでしょうか。今回は高齢者の食事の特徴や食事の形態についてご紹介します。
- 目次
01高齢者にとって食べにくい食事・食材の特徴
1-1噛みにくい食材
高齢者にとってもっとも食べにくいのが「噛みにくい食材」です。一口に噛みにくいといっても、その種類は様々。
たとえば、若い人にとっても固い食材は食べにくいものですが、高齢者の場合には、厚く筋の多い肉などだけではなく、こんにゃくやかまぼこなども食べにくい食材。また、薄く切ったハムなどでもうまくかみ切ることができないことがあります。
さらに、パンやパスタ、ラーメンなども上手に噛めなくなってくるため注意が必要。
また、口の中に張り付きやすい海苔やワカメ、青菜などを食べるときにも工夫が必要になります。
そのほかにも注意が必要なのが、繊維がはっきりした食材。千切りのキャベツやたけのこ、ゴボウ、パイナップル、小松菜やホウレン草の茎など、繊維質の豊富な食材はかみ切るのが難しく、どうしても飲み込みにくくなります。
1-2飲み込みにくい
高齢者の場合、食べ物を飲み込む力が弱くなりがち。そのため、飲み込みにくい食材は避けたほうがよいでしょう。
飲み込みにくい食材といえば、モチが代表的なものですが、その他にもパラパラのチャーハンやピラフ、お茶漬けなども口の中でまとまりにくく、飲み込みにくくなってしまいます。
また、サツマイモやかぼちゃといった水分が少なく、飲み込みにくい食材にも注意しましょう。
1-3むせやすい
高齢者の食事で注意したいのが、食べているときにむせてしまい、食べ物や飲み物が気管に入ってしまうこと。そうなると肺炎の原因になることがあります。
それを防ぐためにも酸味などの刺激物は避けたほうがよいでしょう。レモンなどのかんきつ類はもちろん、酢の物や酢味噌などの刺激でむせてしまうこともあります。
02高齢者の食事に影響をおよぼす機能低下
2-1味覚の衰え
高齢者の肉体の衰えは味覚にも現れます。年を取ると、味の濃いものよりも薄いものを好むようになるというイメージがありますが、実はその逆。
味覚の細胞も加齢とともに減少するため、味を感じる力が弱くなります。特に甘味や塩味を感じる感覚は鈍化することから、年を取ると味の濃いものを好むようになります。ただし、健康上の配慮から塩分などは控え目が推奨されていることから、食事を美味しいと感じることができなくなり、やがて食事量の低下につながることもあります。
2-2感覚の衰え
年を取ると衰えるのは味覚だけではありません。視覚や嗅覚、触覚なども少しずつ低下していきます。
そうなると料理の色や香りを感じることができなくなり、食欲の衰えにつながってしまいます。
また、高齢化とともに必要なのが温度に対する感覚の衰え。熱さに気づかず食事を口に入れてしまい、結果的にやけどをしてしまう可能性もあります。
2-3噛む力の低下
高齢化によって現れやすいのが噛む力の低下です。年を取るとあごの筋肉が衰えることはもちろん、歯を失ってしまうことで、噛む力は若いころの三分の一から四分の一程度になってしまうことも。
さらに、固くて食べられないものが増え、柔らかく食べやすいものばかり選んでいると、栄養バランスが異なり、十分な栄養素を補給できず栄養不良になり、食物繊維が不足することによって便秘などが起きることもあります。
2-4飲み込む力の低下
高齢者は噛む力だけでなく、咀嚼した食べ物を飲み込む力も弱くなります。咀嚼は単に食べ物を噛むだけでなく、口やのどなどの筋肉を利用することが必要です。このとき、あごを上下に動かすだけでなく、舌や歯を使い、食べ物を移動させる、飲み込みやすい状態にすりつぶすなどの働きが重要ですが、これらの細かい動作は高齢者にとっては難しいもの。
食物が喉を通りにくくなると、なかなか上手に食べ物を飲み込むことができず、むせたりつかえたりなどの原因になってしまいます。
また、一度食べ物がむせたり使えたりして苦しい気持ちを味わうと、「また同じように苦しいことが起きるのではないか」と食事自体が嫌になってしまうこともあります。
2-5唾液が減少
高齢者の場合、唾液を作る「唾液腺」の機能が低下、唾液の分泌量も低下します。また、唾液腺は合わない入れ歯を使うことなどによるストレスでも働きが鈍くなってしまうことも。
唾液が低下すると、口の中が乾燥して痛みを感じるだけでなく、口の中が痛くなったり、食べ物が飲み込みにくくなってしまいます。特に、パンなど水分が少ない食材は飲み込むことが難しくなりがち。
さらに唾液が減少すると口の中が傷つきやすくなり、塩味や酸味などが染みてしまう可能性が高くなります。唾液は消化を助ける役割もあるため、結果として胃に負担がかかり、食欲の低下につながってしまうことがあります。
2-6消化液の減少・胃腸の働きが低下
高齢者で注意が必要なのが、内臓の働き自体が低下しがちであるということ。特に働きが低下してしまうのが、食事を消化・吸収するための胃腸の機能。さらに消化液などの分泌量も低下してしまうため、以前と同じ量を食べていても消化に時間がかかり、適切に栄養分を吸収することができなくなってしまいます。
また、消化機能の低下は消化不良や下痢、便秘などの原因になってしまうことも。
さらに胃腸がすっきりしないため、食欲もなくなり、結果的に栄養不良につながってしまうこともあります。
2-7喉の渇きを感じにくい
高齢者は様々な感覚が衰えてしまいがちですが、特に危険なのが喉の渇きを感じにくいということ。そのため、適切な水分補給のタイミングが分からなくなり、脱水症状になってしまうことがあります。
さらに水分はむせたり喉が詰まったりする原因にもなることもあります。
また、就寝前などには夜中にトイレに行きたくないからと水分補給を控える人も多いことから、さらに水分が不足しがちな傾向になり、脱水症状で身体が衰弱してしまうことになってしまいます。
03高齢者の食事形態
3-1高齢者が食べやすい食事とは
高齢者の食事は「高齢者食」と「介護食」と呼ばれるふたつの種類があります。これらの食事は様々な点での配慮が行われています。
3-2高齢者食とは
高齢者食は、加齢によって起きる様々な機能低下に対応した食事です。高齢者に起こりがちな噛む力や飲み込む力の低下、感覚の衰えなどに対応したもので、家族と同じ食事である普通食を食べやすくしたものだと考えればよいでしょう。
たとえば、噛む力が衰えていても、包丁を細かく入れる、一口サイズにカットするなどの配慮を行うと、小さな力で食物をかみ切ることができます。また、噛むのが難しいからと食物を細かく刻んでしまうことがありますが、実際には細かく刻むよりもある程度の大きさがあるほうが口の中でまとめやすく、飲み込みやすくなることがあります。
さらに重要なのが、見た目の工夫。すでに説明したように、高齢者は視覚や嗅覚が衰えることで、食欲を失ってしまうことがありますが、盛り付けや彩り、形、香りなどに一工夫することで衰えた五感でもそれぞれの感覚を感じられるようになり、食事の楽しさを思い出すことができます。
つまり、高齢者食は食事を食べやすくすると同時に、高齢者自身の食事への意欲を導き、食欲を思い出すための食事ということができるでしょう。
3-3介護食
どれだけ元気な高齢者でも、身体の機能は少しずつ衰えてくるもの。昨日まではしっかりと噛めていたという人でも、やがては食事を上手に噛むことができなくなってしまうことがあります。
そんなときに役立つのが「介護食」と呼ばれるもの。介護食は、衰えた身体の「食べる」という機能を補ってくれる食事。
特に高齢者の場合、栄養不足や誤嚥を防ぐためにも、食事の形態が非常に重要になります。
たとえば、食材の固さを調整し、かみやすくした食事や飲み込みやすい食事が重要。
また、唾液の分泌や飲み込む力が低下した場合には、「きざみ食」や「ミキサー食」などが用いられることもあります。
このとき、単に食べ物を細かく刻んでしまうと、口の中でまとまりがなくなり、かえって誤嚥の原因になってしまうことがあるため、食材や体調に応じた工夫を行うことが重要になります。
誤嚥を防ぐためには食べ物にとろみをつけたとろみ食やゼリー食などが用いられることも。その他にも、蒸したり煮たりする時間を長くして食材をより柔らかくしたり、水分量を増やす工夫が行われる軟菜食(ソフト食)などがあります。
といっても、単に食べることができればいいという食事では、食事に対する楽しみも低下してしまい、食欲を失くしてしまうこともあるもの。
介護食を用いるときには、本人がどのような食べ物や味付けが好きなのかといった点も重要。さらに旬の食材を用いるなど、季節感を重視することで、本人の食欲を増進することにもつながります。